薬学講座(12)要因分析に基づく褥瘡ケア-緩和ケアとしての褥瘡ケア-
要因分析に基づく褥瘡ケア
-緩和ケアとしての褥瘡ケア-
静岡県立静岡がんセンター副院長 青木和恵
-緩和ケアとしての褥瘡ケア-
静岡県立静岡がんセンター副院長 青木和恵
創傷には必ず要因があり、これを取り除けば創傷は治癒する。褥瘡は創傷の一つであり、褥瘡ケアとは褥瘡要因を取り除くことと言える。褥瘡の要因は二つで、一つは「体圧の上昇」でありこれは必須要因である。もう一つは皮膚や皮下組織などが脆く弱くなる「組織耐久性の低下」である。褥瘡はこの二つの要因が絡みあって発生する。しかし褥瘡には、これら直接的な発生要因を生み出すさらに根本的な要因がある。がん終末期では、がん悪液質症候群から起こる浮腫、るいそう、麻痺などの終末期がんの症状や、呼吸困難やがん性疼痛などを緩和するための同一体位の持続などの症状緩和対策がその根本的要因である。したがってがん終末期の褥瘡を治癒させるには、これら根本的要因を取り除くことが必要となるが、すでに終末期がんの進行によりそのことは不可能であることが多い。そこに緩和ケアとしての褥瘡ケアを展開する意味があるのである。
緩和ケアとしての褥瘡ケアを展開するうえで最も大切なことは、ケア目標の設定である。要因となる終末期がんの症状を褥瘡発見時よりも緩和できるか否かによって目標が決まる。緩和できると判断する場合には、褥瘡要因の除去あるいは軽減が可能となるので「褥瘡の治癒あるいは改善」を目標とする。緩和できないと判断する場合には、要因を取除けないので、褥瘡治癒は不可能として「褥瘡感染の防止と苦痛の緩和」を目標とする。この目標設定を間違うと患者のQOLに大きく影響して緩和ケアとしての意味を失う。
「治癒あるいは改善」の場合には、疼痛、呼吸困難、倦怠感、浮腫などの症状を取り除く、あるいは緩和することが最も重要なケアとなる。これら終末期がんの症状を除去あるいは緩和することで、体圧分散ケアの実施が可能となり治癒あるいは改善が達成される。並行して創傷の治癒過程をスムーズに進めていくための褥瘡治療を行う。「褥瘡感染の防止および苦痛の緩和を目標とする場合」には、すでに行っている疼痛緩和や呼吸困難対策など、症状緩和対策を可能な限り継続して行っていく。その上で薬剤などによる褥瘡感染防止のための管理、褥瘡治療やケアに関連する苦痛の緩和を行う。
どちらの目標を設定しても、体圧分散と、組織耐久性の低下の防止が必要となる。開発の目覚ましいエアマットなどの分散寝具や用具を用いて、時間的、空間的に可能な限りの体圧分散を行う。皮膚の洗浄や保湿などのスキンケア、タンパク質や電解質などの摂取をサポートする。ただしあくまでも根本的要因である終末期がんの症状に関する緩和対策に競合しない範囲で行うことが、緩和ケアとしての褥瘡ケアとして最も肝要なことである。
資料:「要因分析に基づく褥瘡ケア-緩和ケアとしての褥瘡ケア-」(スライド)
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※本記事は、平成24年2月19日に静岡県立大学で行なわれた、平成23年度薬学卒後教育講座 『チーム医療における薬剤師の役割 第2回褥瘡ケアについて』(薬学部・静薬学友会主催)によるものです。
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