2010年12月15日(水)15時56分

 薬学講座(3)低出生体重の長期予後-疫学から学ぶこと、その限界と今後の展望-


低出生体重の長期予後
-疫学から学ぶこと、その限界と今後の展望-
 
浜松医科大学周産母子センター准教授 伊藤 宏晃

 



     近年英国を初めとする欧州を中心とした疫学研究から、低出生体重児は成人期あるいは老年期における生活習慣病発症あるいは精神疾患発症のハイリスクである可能性が報告され話題となっている。このような概念は当初、提唱者の名からBarker仮説と呼ばれたが、Fetal Programming仮説、Fetal Origins of Adult Disease (FOAD)仮説などの名称を経て、広く発達期における環境因子が健康や有病率に影響を及ぼすというコンセプトからDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD)という名称に集約されている。International Society for DOHaDにより、2011年9月には米国のオレゴン州ポートランドで7th World Congress of DOHaDが開催される予定である。
一方、我が国では低出生体重児の出生が増加の一途をたどり今や年間約10万人に達している。しかしながら、現在において産科・新生児医療において遭遇する個々の低出生体重児に対して、海外の後方視的な疫学研究が果たして当てはまるか否か必ずしもエ ビデンスは充分ではない。さらに、低出生体重の疫学研究の多くは観察研究であり、何らかの介入研究は極めて少ないことから、母体(胎生期)、新生児期あるいは乳幼児期において予防的介入指針を立案するためには解決すべき問題点が多く残されている。例えば、欧州の疫学研究の多くは1920年代から1940年代に低出生体重児として出生した成人の健康や疾病の解析に基づいている。しかし、近年周産期・新生児医療は長足の進歩を遂げ、周産期死亡率あるいは乳幼児死亡率は格段に改善している。さらに、現代の食生活、生活環境は1920年代と大きく異なる。すなわち、欧州における疫学研究の根拠となっている胎児・新生児環境は現代において大きく変化を遂げている。したがって、その疫学研究の結果を現代の産科・新生児医療にあてはめることの妥当性について何らかの検証が必要であると考えられる。本講演では疫学研究から学ぶべき事、ならびに具体的な介入指針を作成するために解決すべき問題点、さらに今後の検討課題について概説したい。

 

 

 

資料:「低出生体重の長期予後-疫学から学ぶこと、その限界と今後の展望-」(スライド)
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※本記事は、平成22年11月21日静岡県立大学で行なわれた、第19回薬学卒後教育講座(薬学部・静薬学友会主催)によるものです。

 

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