2009年12月28日(月)12時00分

 薬学講座(1)がん薬物療法における薬剤師の関わり~薬の専門家として安全・安楽な治療を行うためには~


 
がん薬物療法における薬剤師の関わり
~薬の専門家として安全・安楽な治療を行うためには~
 
静岡県立静岡がんセンター薬剤部主任  本川  聡
 
本邦での死亡原因の第1位である悪性新生物(がん)の対策を推進するために平成19年4月にがん対策基本法が施行された。その基本的施策には、専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成や、医療機関の整備といったがん医療水準の均てん化が謳われている。我々薬剤師もチーム医療の一員として、がん薬物療法に関わっていくためにはがん治療やがん化学療法に関する高度で最新の専門的知識が求められるようになった。
今回は、薬剤師として安全にがん化学療法を行うために必要と思われる知識を概説する。
 通常、がん化学療法は単剤または複数の抗がん剤について投与日、投与量、投与経路、投与時刻・投与時間などを決め、一定期間内で1つのコースを終了するため、これらの内容について指示可能な項目を整理し、まとめたものをレジメンと呼んでいる。レジメンと類似した言葉にプロトコールと呼ばれるものがあるが、これは対象症例や除外基準、評価方法などを含んだ治療計画書を意味することが多い。安全性と効果が適切に評価されたレジメンが院内の中央で登録・管理されていることは治療計画を遂行する上で重要なことであり、薬学的知識を持った薬剤師が、プレメディケーションや輸液を含めたレジメン設計に参画することが求められている。
近年、レジメン管理は電子カルテなどと連携されてシステム化が進んでおり、抗がん剤を含む薬剤の投与スケジュールや休薬期間、投与量のチェックなど、安全にがん化学療法を遂行するための機能が充実されるようになった。しかし、レジメンが院内の中央で登録されていない場合には、抗がん剤が薬剤部に注射箋などによりオーダーされた際に、がん腫や適応レジメンについての詳細な情報を得ることや厳重な薬歴管理が重要となる。我々薬剤師は、このレジメンをもとに医師がオーダーした薬剤の処方監査を行っていくことから、がん化学療法に関わっていくことになる。そして、薬剤の特性を理解して配合変化などに注意し、抗がん剤の曝露予防を行いながら安全に薬剤を調製していく必要がある。
このような安全管理のもとで抗がん剤が供給されても、腫瘍縮小や延命効果と引き替えに、消化器毒性や骨髄抑制などの薬物有害反応がほぼ全例に認められる。したがって、薬剤師は患者への薬物有害事象の情報提供や、その対策を講じるためのスキルが求められる。そのためには薬物のプロファイルや、有害事象の発現部位・発現時期などを理解していることが必須となる。抗がん剤による悪心・嘔吐や骨髄抑制は、がん化学療法を受ける患者にとって脱毛と並んで治療の開始や継続を左右する大きな問題となることがある。しかし、有害事象に対する支持療法は1990年代前半に5-HT3受容体拮抗剤や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF製剤)が本邦で承認され、患者のQOL向上や計画的な治療の実現などに大きく貢献することとなった。悪心・嘔吐のマネージメントは、発現機序や催吐作用の強さを理解しておくことで、治療開始前後に症状緩和を図ることが可能となることや、レジメンを作成する際の参考となる。さらに、骨髄抑制によって生じる好中球減少は感染症のリスクを増加させ、敗血症などの重篤な感染症を発症させ生命を脅かすこともあるため、G-SCFの適正な使用方法や抗菌薬の投与方法を理解することも有害事象の症状緩和には必要である。
 薬剤師は、がん化学療法におけるチーム医療の一員として、抗がん剤を吸収・分布・代謝・排泄といった薬物動態学や薬力学観点から検証することができる職種である。このため併用薬との相互作用などを理解し、最新の情報を収集する努力をしなくてはならない。1993年に抗がん剤との相互作用により、発売後40日間で15名もの死亡者を出した「ソリブジン事件」が起こった。これは、ソリブジンの代謝物がフルオロウラシル系抗がん剤の代謝を阻害し.フルオロウラシル系薬剤の血中濃度を高め,作用を増強したために起こった薬害である。我々は、このような医薬品の副作用による犠牲者を出さないためにも、薬剤師としての役割を果たしていく責務がある。
 さらに、今後我々薬剤師が、がん化学療法に関わっていかねばならない領域は、薬剤師によるエビデンスの構築が考えられる。静岡県下では、10施設が参加した薬剤師主導による多施設共同臨床試験が行われた。このような臨床試験の結果をもとに、薬剤師が医師や看護師に対して情報提供を行っていくことが将来的に必要と思われる。
 このように、がん治療を行うための基本知識を提示したが、臨床の現場ではこの他にも様々な状況に遭遇することがある。最終的に安全で安楽ながん治療を行うためには、スタッフ間のコミュニケーションを密にする事であり、常に同じ情報を共有し合うことが大切である。


資料:「がん薬物療法における薬剤師の関わり」(スライド)
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※本記事は、平成21年11月8日静岡県立大学で行なわれた、第18回薬学卒後教育講座(薬学部・静薬学友会主催)によるものです。

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